南の国の男、北へ '94晩夏 
〜 アフリカツインで駆け回った北海道ツーリング日記 〜

・Day_4

 '94/08/28

 朝、めずらしく日の出前に目が醒めた。また、そのまま眠ってしまうのもなんとなくもったいない気がして、キャンプ場内を散策。東の空が茜色に染まるのを、なんとなくぼんやりと見ていた。

 キャンプ場内にコインランドリーがあるのに気がつく。そーいや、と思いコインランドリーが開くのを待って、洗濯開始。早起きはしたものの、やっぱり出発はいつもの時間になりそうだ(苦笑)。洗濯も終わり、いそいそとテントをたたんで出発。BAJA と SR のにーちゃんたち、元気でな。

 旭川をあっさりとパスして、道道516を北上。山道をどんどん昇っていく。そんなとき、ふと視界の隅を横切った“そば実験農場”の看板。ふと気になってUターンして、実験農場にバイクを乗り入れる。「ほんのちょっと...」だけ覗くつもりだったのに、そののぞいた景色に圧倒されてしまった。

 眼下はあたり一面、そばの白い花。最初の「ちょっと」はどこかへ消し去り、「もっと奥へ、もっと奥へ」という欲求に駆られて、バイクを奥へ進めた。農場の真ん中あたり。気がつくとヘルメットを脱いで、一人立ち尽くしていた。まわりは、そばの白い花で埋めつくされ、その上を風が吹き抜けていった。全身の毛穴が広がり、髪の毛が逆立つのがわかった。自分以外、他には誰も居ない独り占めの景色。まともなコトバが出てこなかった。

 後ろ髪をひかれるような気持ちで、実験農場をあとにした。

 幌加内の手前、しんなりうの駅があった。単線の無人駅。時が過ぎるのを忘れたかのように、この駅はひっそりとたたずんでいた。次の列車はいったい、いつ来るのであろうか...。

 R275 をさらに北上。朱鞠内湖の裏のダートを抜け、美深から R40 を音威子府へと向かう。途中、“天塩川温泉”とでかでかと出ていた看板にひかれて、温泉へ。そーいや、道中で初めて立ち寄る温泉だなぁ...。どピーカンの天気の下、抜けるような青空を見ながら風呂に入るのは気持ちがいい。あまりの気持ちよさに、ねっこが生えそうになっていた(笑)。生えかけていたねっこを引きちぎり(爆笑)、再出発。音威子府から遠別へ。

 有名な道道909“オロロンライン”を走る。いつハンドルをきったか忘れるくらいにひたすらまっすぐな道。視界の遥か向こうまでまっすぐだ。今まで経験したことのない道にひたすら感動していたが、あまりにも単調すぎて挙げ句の果てには退屈してくる始末(苦笑)。こうなってくると日頃のオチャラケ根性が顔をのぞかせてくる。

 幸か不幸か、ここは北海道ツーリストにとっては有名な道。すれ違う連中も今までの道に比べ多く、芸のしがいがあるというモノ(笑)。単なるピースサインでは飽きたらず、ボディアクションを織りまぜた、奇妙なポーズをとりはじめた。いったい、すれ違ったバイク乗り達は、バカでかいアフリカツインに乗って、ピースサインの代わりに片足を上げたり、バンザイをしたりと変なポーズをとる自分をどう思ったであろうか...(爆笑)。

 すれ違う連中も多ければ、抜いていく連中も多いというもの。路肩に止まって日本海を眺めているライダーもいれば、バイクよりもデカい荷物を積んで走っているモンキーもいる。またひたすら自分の足で前に進み続けるチャリダー達。

「ひょっとして、オレより楽しんでないかい?」

 そんな気持ちが頭をよぎる。ちょっとだけうらやましい。「がんばれよ!」そんな想いを込めて、抜く瞬間に拳を握りしめてガッツポーズを送った。ミラー越しにガッツポーズを返すもの、手を振るもの、ホーンを鳴らすもの、必ず何らかのリアクションが返ってきた。

 どこまでも続いてく気がするまっすぐな道。そろそろ、ヘルメットの中で歌う(叫ぶ?(笑))歌のネタもつきてきた(爆笑)。北上を続ける右手に原野が見えている。サロベツ原野だ。地図を確認すると、サロベツ原野原生花園があるらしい。ただ単にまっすぐ走るのにも、感動が薄れ、慣れてきた頃。迷わず、寄り道決定(笑)。

 訪れた原生花園。そこには資料館らしき建物と、そこを横切る道路以外はなぁ〜んもない、ただの原野だった。背丈の低い植物があたり一面に広がり、視界を遮るようなものは何もない。点々と見える観光客の上には青空。原野を一周する遊歩道をモトクロスブーツでどかどか歩くのはしんどいが(苦笑)、何も考えず、ぼんやりとそこを散策していた。名前も知らぬ植物の上を、風が通り過ぎてゆく。

 再び道道909に戻り、北上を続ける。アスファルトの上を走るのも飽きた頃。ならばと、バイクごと砂浜に足を踏みいれてみた。砂浜にはたくさんの木片などが打ち上げられており、砂浜もせまい。砂自体は湿っていたのか、締まっており、アフリカツインがみるみる埋まる(爆笑)ということもなかった。ほんの少しだけ砂走りをしたあと、海と道路の間にあった小道をとろとろ走る。何度か、タイヤが砂に食われて“お地蔵さん”になりかけたこともあったが(笑)、無事にもとの道へ復帰。さらに北上。

 陽も傾き始めた頃。光の具合か、空気が澄んでいないのか、はたまた運がないだけなのか(笑)、礼文、利尻の島々が見えない。どうもタイミングってものに関しては、あまりうまくないよなぁ(苦笑)。

 右手の風景が原野から丘に変わってくる。稚内も近い。道沿いにみやげ物屋が出てきて、ノシャップ岬に到着。陽はだいぶ傾いた。観光客のおばちゃんたちに埋もれるように、“ノシャップ岬”の看板があった。ウワサには聞いていたけど、ホントに看板一枚だけ。西日さすシルエットの中に、防波堤の近くで遊ぶ家族連れがいた。今日は稚内で泊まりかな...。

 今晩の宿はライダーハウス。富良野で泊まったハウスとはえらい趣が違う(一言で言えばボロ(笑))ハウスだった。「こりゃあ、失敗したかなぁ...。」 そう思ったが、まぁよかろう。先客の中には鹿児島(!)からの“とほダー”がいた。聞けば6月くらいに出てきたとのこと。おい、2ヶ月で最北端まで来たのかよ...。

 泊まった後で知ったがこのハウス、ある程度、人数が集まればオーナー自ら宴会を開くらしい。夕方まではそんなにいなかったので、そうならない予定であった。が、夕方にはあれよあれよと増えて、結局11人。オーナー自ら、騒ぎ始めていきなり宴会が始まった。バーベキュー用の炭も起き、さて肉を...、そう思ったとき、一台のスクーターが入ってきた。こりゃ、珍しい。女の子だ。そのコに向かって、自分は開口一番、こう言い放った。

「鼻が効くねぇ。戌年かい?」

 当然、そんなわきゃない(笑)。そんなヤツは自分だ(大爆笑)。そのコも交えて宴会はさらに盛り上がった。しかし、こんなんじゃあ、ドラマも起こるわけないわな。自分の芸人根性が恨めしい(笑)< 誰が芸人じゃ

                      − 本日の走行距離、360km −

つづく

 


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