南の国の男、北へ '94晩夏 
〜 アフリカツインで駆け回った北海道ツーリング日記 〜

・Day_0

 その年は、年が開ける前からどうも変だった。

 バイクはトラブルし(もっともこれは自分のせい(苦笑))、夢見た仕事に就くことはできたものの、そうは思い通りには運ばず、夢と現実のギャップに悩みながらの日々が続いていた。そうこうしてる間に、身体の調子はおかしくなってくるわ、当時つき合っていたヤツにまで愛想つかされるわで、バイクに乗ることでさえもツラくなってきた。

 「本厄は去年だったのになぁ...(笑)」

 と思いつつもその年は“後厄”(爆笑)。

 そーいや、何年か前もこんなコトがあったなぁ...。あのときは北海道に行こうとしてたのに、バイクを盗まれて、結局行けなかったっけ...。なくした「あの夏」をひろいに行こうと思うが早いか、仕事を辞め、北海道行きのための準備をはじめた。

 「どうせ、こっちで待ってるヤツなんて、もういないんだし...」

 8月23日、23:30、有明発苫小牧行、予約No.31のチケットを手にいれて、夜の有明フェリー埠頭に向けて荷物満載のアフリカツインを走らせる。

 「あの夏は、いったい何を落としたんだっけ...。」

 そう思っていたか別のことを考えていたかはさておき(笑)、とりあえず、北の国へ向かってフェリーは埠頭を離れた。

 フェリー内では、乗船待ちの間、物珍しげにアフリカツインを見ていた大学生のにーちゃん2名が話し相手になった。ややもすると、退屈な船内になりそうだったが、なんとなく一安心。なんだかんだとヨタ話をしながら、フェリーは一路、北へ...。しかし、船内に30時間も閉じこめられるのはこたえる(苦笑)。九州の実家へ帰るときの、フェリー20時間でさえもキツいのに...。

「帰りは...大洗だな(笑)」

 ********

・Day_1

 '94/08/25 早朝

 船内での運動不足で、なんとなく寝つかれないまま、まもなく到着の船内アナウンス。窓からは、北の大地が見えはじめている。とりあえず、地図を見る。時間と予算の都合上、道南地方はまわれそうにないから、今回は残念ながらパス。苫小牧から北へ行き、時計まわりで一周しようと決める。

 「いったい、何が待っているんだろ...」

 初めての北の大地に期待と不安が交じる。しかも、北海道初日だというのに、船内で流れている天気予報はよくない(苦笑)。まぁ、それもよかろう。行けるとこまで行って、キャンプするか、どっか屋根のあるところに泊まるか決めよう。

 船内の時間を一緒に過ごしたにーちゃん達も、似たようなルートでまわるらしいが、私はとりあえず、チェックしてきた苫小牧近郊の林道を目指すので、ここでお別れ。

 「またどこかで...」

 わからないけど、ついこう言ってしまう。サヨナラ、じゃ味気なさすぎるし、今生のお別れでもないのだから。少し曇ってきた苫小牧の街をはずれたスタンドで、ガソリンを給油。めぼしをつけてきた林道へバイクを走らせる。

 さあ、いよいよ本番だ。

 晴れていれば左手に見えるであろう樽前山の麓を走り抜ける林道を支笏湖へ向かう。途中、間違えて樽前山の登山口に行ったりしたが(笑)、無事に林道を抜けた。林道の途中から降り始めた雨も、湖に着く頃にはカッパが必要になってきた。道沿いの木陰でカッパを着込む。ここで直接、湖の方には行かずに寄り道。千歳から恵庭へ抜けて、恵庭渓谷を抜ける林道へ。しかし、林道は土砂崩れで通行止めであった。まぁ、ラルマナイ川の林道もあるし...と思ったら、こっちも同様に通行止め(涙)。地図を片手にどうルートを組み直そうかと考えていると、目の前に林道が口を開けていた。どうやら支笏湖の方に抜けられそうだ。見つけたが早いか、バイクを林道に乗り入れる。うっそうとしげる森を抜ける林道。雨を受けて、なんともいえない空気が漂う森の中を、気持ちよく走っていた。そんなとき、ふと見つけた小川。ちょっと戻って、川の水に手をひたしてみる。

「つんてぇ。」

 エキノコックスが頭の中にちらついたが、口の中に水を含んでみる。こりゃ、うめぇわ。清流で喉を潤し、林道を進む。この頃には雨も止み、さっさとカッパを脱いだ。また降ったら、また着ればいいさ。

 支笏湖では降ったり降られたり。恵庭岳の裏側を通るダートを抜け、R276を羊蹄山へ。晴れてりゃ、蝦夷富士の姿を拝めるのに...。麓の道を時計まわりにまわって洞爺湖へ。この頃には雨もすっかり上がっていた。その洞爺湖への入り口。朝、別れたばかりの二人のにーちゃんとすれ違う。にーちゃん達はもう洞爺湖を見てきたようだ。Uターンして追っかけて、二言三言交わして別れる。洞爺湖を望む展望台でちょっと休憩。チャリダーのにーちゃん&ねーちゃん達が楽しげに談笑している。ちょっと話に加わってみたかったが、どうやらその余地はなさそうだ。こんなとき、シャイな性格(<バキ)がうらめしい(爆笑)。そうこうしてる間にチャリダー達は出発していき、なんとなく自分も出発。

 ぼんやりと洞爺湖を一周。途中、源義経が蒙古へおちのびる際に隠れ潜んだという、義経岩を見る。オフブーツでどがどが(笑)歩くのは辛かったが、岩まで登りつめれば納得の景色。小さな滝の横にあるほこら。東北(だったかな?(苦笑))で討たれたはずの義経がここで幾夜をすごしたという伝説。ここから大陸に渡って、チンギス・ハーンになったという伝説。たまにはこういうマロン、いやロマンのある話にふけってみるのもよかんべや(爆笑)。

 さて、そろそろ今日のねぐらを決めようか。

 太陽が傾きはじめている。さて、記念すべき北海道第一日目のねぐらは...っと、地図とにらめっこ。天気もよくなりそうだし、キャンプでもしようか...と目についた真狩村の羊蹄山の麓のキャンプ場。ここからそう遠くはないし、ちょうどよかろう。真狩村のコンビニで晩メシの買い出し。といってもレトルトだけど(笑)。買い出しを終えてバイクに戻ったとき、ふと民家の床下にある網の張られた通気口の向こうに猫がいる。

「おまえ、なんしょっとね?」

 どこから入ったんだか、猫が網越しにこっちを見つめてないている。

「わりーねぇ。オレは出してやれんがね。」

 上京してからもバリバリ使っている、田舎のコトバ。たとえ北海道でも田舎コトバは全開(笑)。北の国の人は、南の国のコトバを話す変なヤツ(苦笑)を見てどう思うだろうか? そう考えるだけでも滑稽である。

 猫と戯れたひとときのあと、キャンプ場に向かう。ちょっと入り口で迷ったが無事到着。何台かの車のほかは、先客のバイクが一台。テントを張っている内に、何台かやってきた。近場にテントを張ったもの同志で、ささやかな宴会。宴会もはけてキャンプ場の受付で教わった共同浴場へ。この頃にはもう陽もとっぷり暮れて、満点の星空。天の川なんて、どれくらいひさかたぶりなんだろ...。田舎にいた頃は冬にはすばるもよく見えたんだけど、東京の夜空は明るすぎて見えるわけない。フロ上がり、なぁんも考えずに、空を見上げる。つい口があんぐりしてしまうのはなぜだろう?(爆笑) つまらないコトを考えながら、キャンプ場へ戻る。

 さて、明日はどこへ行こうか? テントの中で思案する。まぁ、ニセコから小樽へ抜けて、そのあとはそのあとだ。

  明日はどこまで行けるかな?

                       (本日の走行距離、334km)

 

つづく

 


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